近年、ヒアルロン酸注入による美容医療は、シワやたるみ、唇のボリュームアップなど、手軽かつ効果的な施術として多くの方に選ばれるようになりました。しかし、美容医療である以上、ヒアルロン酸注入にもリスクが存在します。その中でも「感染」は決して軽視できないリスクの一つです。本記事では、ヒアルロン酸注入で起こり得る感染の原因や症状、予防法、そして疑わしい症状が出た場合の対処法について、患者さんの疑問や不安を踏まえて詳しく解説します。

ヒアルロン酸注入と感染リスクについて
1.ヒアルロン酸注入の人気の背景
ヒアルロン酸は人体の皮膚や関節などにも含まれる成分であり、もともとアレルギーなどの副作用リスクが低いとされています。そのため、シワやたるみの改善を目的とした美容施術や、目元・頬・唇などのボリュームアップのために注入するケースが増えています。施術自体も比較的短時間かつダウンタイムが少ないメリットから、幅広い年齢層の方が受けています。
2.感染は稀だが決してゼロではない
ヒアルロン酸注入での感染率は稀ですが、医療行為である以上「絶対に起こらない」ということはありません。たとえば、注入部位の衛生管理が不十分だったり、患者さん自身の免疫力が低下していたりすると、細菌や菌が入り込む可能性はあります。感染を一度起こしてしまうと患部の腫れや痛み、内出血、化膿などを引き起こし、治療が必要になるため注意が必要です。
ヒアルロン酸注入で考えられる感染の原因とメカニズム
1.施術環境や器具の問題
医療機関によっては滅菌・消毒のレベルが十分でない、あるいは医療スタッフの手指消毒が徹底していないなどの理由で、細菌が注入器具や施術環境に付着している可能性があります。施術時に皮膚の表面や針を通して菌が体内に入り込むと、感染を引き起こすリスクが高まります。
2.患者側の要因(体調・既往症など)
感冒や免疫疾患などで体調が弱っているときは、健康なときよりも細菌に対する抵抗力が低下します。また糖尿病などの基礎疾患を持っている場合も、組織修復のスピードが遅れ、感染を起こしやすい傾向があります。
3.ヒアルロン酸の性質による影響
ヒアルロン酸はゲル状であるため、一度菌が入り込むとそのゲル内部で菌が増殖しやすい環境になることが指摘されています。適切な製剤を選び、正しい注入層や注入量を守ることが重要です。

感染が疑われる症状と経過
1.代表的な症状
● 発熱:局所の炎症に伴い発熱や悪寒が生じることがあります。
● 腫れ・痛み:通常のダウンタイムを超えて長引く腫れや強い痛みが続く場合は要注意です。
● 変色(発赤・内出血):強い赤みや皮膚の変色が目立つ場合は感染や血行障害の可能性があります。
● しこり・化膿:注入部位にしこり状の硬さや膿が出るようであれば早急に医療機関を受診すべきです。
2.潜伏期や遅発性の感染
注入後、すぐに症状が出る急性の感染だけでなく、数週間~数カ月経ってから遅れて症状が発生する遅発性の感染も報告されています。これは、体内で菌が少しずつ増殖してから症状が顕在化するケースです。遅発性の場合、見逃しやすい分、治療が遅れることもあるため注意が必要です。
感染の治療と対処法
1.抗生物質の投与
感染が疑われる場合は、まず医療機関を受診して原因菌を特定することが大切です。細菌が検出された場合には、その菌に適合した抗生物質の内服・外用・点滴などが行われます。症状が軽度であれば抗生物質のみで治ることもありますが、重症化して膿が溜まっているような場合には、切開や吸引で排膿処置を行う場合があります。
2.ヒアルロン酸の除去(分解酵素の注射)
感染部位に残っているヒアルロン酸が原因の一部となっている場合、ヒアルロン酸分解酵素(ヒアルロニダーゼ)でヒアルロン酸を分解・除去し、菌の繁殖を抑える処置が検討されます。早期に適切な処置を行うことで症状の悪化を防ぐことができます。
3. 自己判断は禁物
感染の可能性があると感じても、自己判断で市販薬を塗ったり、痛みを我慢して放置したりするのは非常に危険です。状態が悪化したり、変色や血行障害を招いたりする恐れがあるため、速やかに医師の診察を受けるようにしましょう。

感染を予防するために
1.施術クリニックの選び方
● 適切な消毒・滅菌が徹底されているクリニックを選ぶことが大切です。
● 使用するヒアルロン酸製剤の品質や、医師の技術レベルについても十分に確認しましょう。
● カウンセリング時に疑問点や不安点をしっかり相談し、納得した上で施術を受けることが重要です。
2.体調管理と術後のケア
● 注入前に風邪気味・体調不良などを感じた場合は日程を延期し、万全の状態で施術を受けましょう。
● 術後は注入部位を清潔に保ち、医師からのアフターケア指示(洗顔・メイク・入浴のタイミングなど)をしっかり守ることが大切です。
● 万が一異常を感じた場合は自己判断せず、施術を受けたクリニックに連絡して指示を仰ぎましょう。
まとめ:リスクを正しく理解し、安全な美容医療を選択しよう
ヒアルロン酸注入による感染はまれとはいえ、万が一発症すると厄介な症状が出る可能性があります。適切な施術環境と医師の技術を選ぶことはもちろん、術前の体調管理や術後のアフターケアを怠らないことが何より大切です。注入部位の腫れや痛み、しこり、化膿などの異常を感じたら、早めに医療機関を受診することで重症化を防ぐことができます。
「ヒアルロン酸注入は手軽」と言われがちですが、実際には医療行為です。感染リスクや副作用への正しい認識を持ち、信頼できるクリニックを選び、適切なアフターケアを行うことで、より安全に美しさを追求することができるでしょう。